農業

米作り奮闘記(1)

プロローグ

田植えを終えてホッとしたのも束の間、今は一日2回朝夕に田んぼに赴き水量調節をしている。米作りは初めてで知識もなく全体像が掴めていないが、周りの人の話を聞きながら一つずつ作業をしている感じだ。

なぜこの様に知識・経験のない人間が米作りをしているのかの話をするには、3か月ほど前まで時間を戻さなければならない。

春先の暖かくなりつつ桜につぼみがついてきた頃。いつも通りツルハシやノコギリをもって土地の開墾をしていた所へ、いつも世話になっているご近所さんが一人の老人を連れてきた。軽く挨拶を交えた後に先方から本題を切り出してきた。

「米作りをしたいならウチの田んぼを使ってくれ」

「そうですね。米作りはしたいと思っていました。でも、今年は他の事で忙しいので、来年から始めたいですね」

「まあ、そう言わんと今年からやってくれんか」

チャンスは突然訪れるモノである。自分がしたい事は自分で決めれるが、それを実行に移すタイミングは自分で決めれない事が多い。それは、自分にとってベストなタイミングではない事もあるだろうが、一度逃がしたチャンスに二度目は約束されていない。

「分かりました。やりましょう」

一瞬考えたが、相手から見たらほぼ即答だっただろう。何でも一晩考えたがる人間はチャンスを掴めないと自分は思っている。どうやってやるかは後で考えればいい。相手の前で考えると迷っていると思われる。そうすると相手の気持ちも揺らぐ。競争相手がいるならば先に手を付けられるだろう。幸運の女神は勇猛果敢な男に微笑みかけるとマキャベリは言ったが、一歩前に出る事により予期せぬ所で事態が好転する事はあると思う。

米作りに使う機械なんか持っていない。何が要るかも知らない。だが、何もなければ全部手作業でやってやろうという気概は持っていた。

田起こし

話を聞くとその老人が所有している田んぼは一反五畝(約1500m2)あるという。そしてトラクターは持っているので自由に使って良いとの話だ。

トラクターの運転を想像するとなぜか胸が躍った。ジム・ロジャーズが若い女性キャスター相手にいつも言っている「これからの時代はトラクターの運転を覚えていた方がいい」との言葉を咄嗟に思い出したからかも知れない。

それから一か月もしないうちにトラクターを運転する機会は訪れた。

田起こしの季節だ。

初めてなのでトラクターを田んぼに入れるところまではやってもらった。トラクターの事故は田んぼへの出し入れの際に起こる事が多いそうだ。一度、田んぼに入れば横転する事はそうそう無い。

ひとしきり運転方法や作業の説明を受けて、いざ作業開始。

時速2~3kmの乗り物で田んぼをひたすら往復して耕していくのである。3時間ほどかけて作業は終わった。最初の1時間以降の作業の退屈さとトラクターの運転をした達成感が混ざって何とも言えない気分になった。

代掻き

この周辺は池の水を引いて田んぼに入れている。今年は池の門が開くのは6月10日との事だが、一番低い土地にある私の田んぼに水が回って来るのはそれから4、5日かかるらしい。水が来るまでに田んぼに肥料をまいて、もう一度トラクターで浅く耕す。肥料をまくのは早すぎると雨で流されるので田植えの1週間前がちょうどいいとの事だ。これで後は水が来るのを待つだけだ。

6月11日。田んぼに水が入っているとの連絡を受ける。昨日、池の門が開いたばかりなのに聞いていた話と違う。どうやら朝に降った大雨で水の回りが早くなったそうだ。特に日にちを決めていた訳ではないが、明日には代掻きをすると田んぼ(そしてトラクターの)のオーナーに伝える。そして、この日の夜はYouTubeで代掻きのイメトレをして寝床に就く。

明朝、トラクターの準備をしていると近所の人が見に来てくれた。ここでトラクターの設定などのレクチャーを受ける。そして、いざ実践。

代掻きを始めてそうそうに、見に来てくれてた人は病院の予約があるとの事で帰っていった。いきなり一人になったが、これで昨晩のイメトレは無駄にはならないようだ。

代掻きと言うのは、田んぼに浅く水を張った状態で耕して、泥の層を表面に堆積させて田植えをしやすくするのが目的だ。そしてこの時に田んぼを出来るだけ均平にして、水深のムラをなくすとその後の作業が捗る事になる。

この代掻きだが作業として面白い。そして難しい。YouTubeで見ていても、みんな違うやり方でやっている。それだけ皆こだわりを持って行う作業なのだ。

今回の課題として残ったのは水加減だ。開始時から少し多めに水が入っていたのだが、代掻き中にも水かさが増えて土の具合がよく見えなくなった。結果的には、少し高低差が出来てしまったが、それなりには出来たと思う。反省点があったが、次はまた来年。一年に一度限りの挑戦だ。

代掻きが終わったら泥が沈殿するまで3日程待ってから田植えをする。代掻き直後だと、泥がゆるゆるで稲が倒れてしまうからだ。そして、田植えまでは水が涸れない様に水の量に注意して管理する。

田植え

田植え前日。近所の人に育てて貰っていた稲の苗を田んぼに移す。きぬむすめという品種を25箱、雨の中軽トラで2往復して作業終了。苗は元気に育っていて、これでいつでも田植えが出来る状態になった。

しかし、ここでトラブルが起きる。貸して貰えるとあてにしていた田植え機が故障したらしい。機械の持ち主はもう一台の田植え機を使って田植えを続けているが、動いている方の一台まで壊れては困るので代わりに田植えをしてもよいと提案してくれた。初めての田植えの機会は逃したが、今回はサポート要員として田植えに参加する事になった。

6月15日 朝5:30。田植え機の前に集合して田んぼに移動する。サポート要員としての仕事は、育苗箱から稲を取り出し、田植え機用のトレイに移し、農薬をふりかけて、順番に田植え機を運転している人に渡す。そして、田植え機がUターンした場所のタイヤ痕をトンボで均す。サポート要員がいれば田植え機から降りることもなく、見る見るうちに稲が植え付けられていく。

朝7時に田植え終了。まだ寝ている人からすれば夜が明けたらいつの間にか稲が植え付けられている事になる。整然と植え付けらた稲を見ていると爽快な気分になり、そして今後の成長を願う気持ちが自然と湧き出てくる。

水が増えるとまだ小さな稲が水没する。水が減って土が見えると雑草が生えてくる。米というモノはご飯になるまで水加減が大切と言われるそうだ。そういう事もあって、今日も朝夕に田んぼに赴き水量調節をしているというのがこれまでの経緯だ。

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