農業

米作り奮闘記(3)

ウンカ被害の拡大を心配しつつも、とうとう稲刈りの日がやってきた。

3日前に降った大雨で田んぼが少しぬかるんでいるが、ウンカ被害の懸念もあるし、収穫適期に入ったのでもうこれ以上は待ちたくない。

収穫適期は出穂(しゅっすい)からの積算平均気温で見当を付けて、最終的には籾の色を見て判断する。

熟れた稲穂は美しい。稲刈りが始まってしまうとあまり悠長な事を言っていられなくなるので、人が集まってくる前に3か月半成長を見守った稲を見渡して稲刈り前の一時を過ごす。

稲刈り

今日は近所の人達が稲刈りの機械を持って来て、そのまま稲刈りを手伝い、技術指導までしてくれる事になっている。なんと恵まれた環境かと思いつつも、あまり甘えてもいられないので機械が刈れない田んぼの角を鎌で刈り始める。

そうしているうちに荷台に農機を載せた軽トラが集まってくる。挨拶も早々にバインダーのエンジンを掛けて田んぼの中に入っていく。仕事が早いと言えば聞こえがいいが、言い換えればかなりせっかちな人達だ。まだ、田んぼの四隅全て刈れていなかったので鎌を持って急いで先回りをする。想像していた通り、一度作業が始まると息をつく暇はない。

ちなみに、バインダーとは稲の刈り取りと紐で束ねる作業を行うエンジン式の機械で、操縦者は機械の後ろを歩き切り返しの際に左右のクラッチを握り方向転換を行う。束ねられた稲は機械の右側にはじき出されるので、操縦者以外の作業者がこれを集めていく。

とは言っても、今時バインダーを使って稲刈りをする米農家は少なく、稲の刈り取りと脱穀を同時に行うコンバインを使うのが主流である。作業効率はコンバインの方が格段と上なのは言うまでもないだろう。

しかし、バインダーを使った稲刈りにもメリットはある。先ずは、はざ掛けと呼ばれる天日干しのお米を作れる事。

コンバインで刈り取った籾は脱穀された状態である為、ぶら下げて天日干しにする事は出来ないので乾燥機で乾かされる。この際の乾燥時間は数時間で刈り取りをした翌朝には食べれるお米になっている。

これに対して、天日干しは1~2週間掛かるが、ゆっくりと乾燥される分、米の旨味が増して美味しくなると言われている。天日干しのお米はあまり市場に出回らないので、他のお米と差別化するのにはこの方法が良いと考え、自分はあえて手間のかかるこの方法を選んだ。無農薬での栽培も検討したが、周りの水田で農薬を使っているので、無農薬を謳うのは無理があると思い早々に諦めた。

もう一つのメリットは刈り取った稲から藁(わら)が取れる事だ。たかが藁のように思えるが、家庭菜園で重宝されており結構な金額で販売されている。要は、藁を集めて販売すれば小遣い稼ぎになるというのが2つ目の理由だ。

稲刈り作業に話を戻そう。当日の作業はバインダーで稲を刈り取り、稲を掛けるはざを組んで稲を2段重ねで掛けていく。

局所的にウンカ被害にあって枯れている箇所も取り敢えずはバインダーで一緒に刈ってから後で集めて田んぼで焼却する。ウンカ被害にあっている稲の株元周辺にはウンカがピョンピョン跳ねている。住処を失ったウンカ達はまだ稲刈りの終わっていない隣の田んぼに引越して行くのだろうか。

病害虫防除所の発表によると、今年は岡山県南部でのウンカ発生圃場率は88.6%で平年の発生率17.4%を大きく超えている。地域全体の問題なので、稲刈りを終えた人間は「いち抜けた」状態となり、まだの人間は自分の田を守る為に最善を尽くすという事である。

結局、稲刈りをして全てをはざ掛けするには丸二日要した。後は太陽熱と風により乾燥されて、米の水分が15%になるまで待てばよい。

収穫

乾燥期間中に一度台風が来たが特に被害はなかった。強いて言えば、また雨で田んぼがぬかるんだぐらいだろうか。作業をするには田が乾いているにこしたことはない。

農協に乾燥中の籾を持って行くと無償で水分量を測定してくれるので、乾燥を始めてから14日目で米の水分を測ってもらった。

結果は、15.0%ジャスト。

水分量が目標値に到達したので、急いで収穫の段取りをする。脱穀をする機械の手筈と籾摺りの予約、そして作業者の都合が合う最短の日を調整する。日が経ちすぎると米が乾きすぎて品質の低下を招いてしまう。

乾燥開始から17日目。日程調整が出来たので脱穀から籾摺りまで一日で終わらせるつもりである。

脱穀にはハーベスターという機械を用いて籾を回収していく。3人作業者がいれば、稲をはざから外す人、ハーベスターにかけて脱穀する人、脱穀された藁を受け取る人と作業を分担出来て仕事が捗る。2日掛けて刈った稲だが3時間ほどで脱穀が終わった。脱穀された籾は軽トラで運べば籾摺りと袋詰めは全て業者がしてくれる。

籾を引き渡したのが午後2時30分。そして籾摺り完了の連絡があったのが午後5時。籾摺りをして初めて収量が分かるのだが、電話口で聞くのはもったいない気がしたので、玄米を受け取る際に直接聞いてみる。

業者に会って先ず最初に収量を訊ねるが、先方も慣れているらしく太マジックで書かれた紙を渡してくる。

結果は20袋と8kg。一袋30kgなので合計で608kgとなる。

昔の言い方だと約10俵だ。作付面積が1.4反とすると、一反当たりの収量は7.2俵となる。今年は6俵を下回る田も多かったと聞いたので、よく健闘したのではないだろうか。

袋詰めされた玄米を軽トラに載せるが、まだ一日は終わらない。アパート暮らしで農家をやっているので米の保管場所は広くない。既に予約があった米はこのまま直接配達して米の量を減らさないと家の中が大変なことになる。

大口予約を2件配達して、やっと作業終了。

でも、どうしても自分達で作った新米を食べたいので、そのままの足でコイン精米機に向かい精米する。そして家にたどり着いて米を炊く。

今朝まで天日干しにされていた米を食べれるのは生産者の特権と言えるだろう。もちろん今までそんな米を食べた事はないので期待が高まる。

コシがあって、ほのかに甘い。おかず無しでも食べ続けられる。美味しいからしっかり味わう。味わって食べるからより美味しく感じられる。一日中米を触っていた一日がこうして幕を閉じる。(完)

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